「言った言わない」で無償の修正が続くと、単価は変わらないのに作業時間だけが増えていきます。納品後に出てきた追加要望で、見込んでいた工数が倍になることもあります。
原因は自分のヒアリングにあると感じて、制作会社のヒアリングシートを開いた人は多いはずです。ところが項目が並びすぎていて、どれが自分の案件に要るのか判断できないまま閉じてしまいます。
足りないのは項目の数ではありません。自分の案件規模で、どの項目を残すかを決める基準が足りていません。
この記事は、その基準を1枚に落とした状態で渡します。核になるのは共通12項目で、これに契約条件の7項目を足した計19項目が1枚に載ります。聞き方の一文と、金額帯ごとに残す項目まで揃えました。
- 一人で受ける案件で外せない共通12項目と、そのまま使える聞き方
- フリーランス法の明示8事項から、シート下段に置く契約条件7項目の選び方
- 案件の金額帯(5万円/20万円)で、埋める項目と空項目のままでよい項目の線引き
- 空で返ってきたときに、仮案で埋めて確認する返信の型
テンプレに入れる共通の12項目
相談者項目は多いほど安心な気がしますが、12個に絞って大丈夫でしょうか?



聞かないと後から取り返せない項目だけを残しています。数ではなく、抜けたときの損害の大きさで選んでください。
共通12項目は、案件の輪郭をつかむ4項目、進む方向を決める4項目、工数を守る4項目でできています。
選んだ基準は、聞かなかったときの損害が大きい順です。お金と期日に直結する項目、判断の基準を決める項目、作り直しの引き金になる項目の3種類だけを残しました。
項目は数ではなく、後から取り返せないかどうかで選びます。
| 項目 | そのまま使える聞き方 | 答えが無いと困ること |
|---|---|---|
| 依頼の背景 | 今回ご依頼いただくきっかけを教えていただけますか | 提案の前提がずれる |
| 最終決裁者 | 最終的にOKを出すのはどなたですか | 後から差し戻される |
| 達成したい状態 | 完成して半年後、どうなっていれば成功と言えますか | 評価の基準がぶれる |
| 現状の課題 | いま一番お困りなのはどの部分ですか | 要望の優先順位が付かない |
| 届けたい相手 | これを最初に見てほしいのはどんな方ですか | 判断が好みの話になる |
| 使われる場面 | どこに掲載しますか。スマホと紙のどちらが主ですか | 仕様のやり直しが出る |
| 好みの参考例 | 近いと感じる例を3つ挙げていただけますか | 方向性が言葉のまま進む |
| 避けたい方向 | これだけは避けたいという例はありますか | 作り直しの原因になる |
| 支給素材と提供日 | 文章と写真はいつまでにいただけますか | 待ち時間が納期を削る |
| 素材の利用条件 | その画像や文章はご自身で用意されたものですか | 権利の確認が後手に回る |
| 公開日と確認の場 | 公開日と、途中で確認いただく日を決めさせてください | 確認待ちで工程が崩れる |
| 修正の回数と追加条件 | 修正は2回までを目安に、それ以降は別途お見積りでよろしいですか | 無償修正が続く |
ここで埋めた内容は、そのまま見積書の前提になります。直接契約なら、フリーランスの見積書の作り方と合わせて金額に落としてください。
素材と修正は工数を守る項目
素材の提供日が遅れれば着手も遅れます。提供日を決めたうえで「この日を過ぎた場合は納品日を後ろにずらす」と書き添え、同じ内容をチャットにも残しておきます。
素材の権利も、ここで線を引きます。条件項目に「ご支給素材は権利をご確認済みという前提で使用します」と書き、第三者から指摘があった場合の対応は発注者側にお願いすると続けます。
修正の項目は、回数だけでなく戻る工程で線を引きます。文言や色の差し替えは範囲内、構成からのやり直しは別見積と書き分けておけば、追加要望が出たときに金額の話につなげられます。
2回までと伝えた後に「それだと不安です」と返されたら、回数の理屈と代わりの選択肢をセットで返します。
「回数を区切るのは、ご確認いただく回を集中していただくためです。3回目以降は1回あたり〇円でお受けできます」
契約条件はヒアリングで確かめる



お金の条件を初回から聞くと、図々しいと思われませんか?



取引条件の明示は発注者側の義務です。主語を法律に移せば切り出しやすくなります。
お金の条件は、こちらから聞いていい項目です。フリーランス法は令和6年11月1日に施行され、発注者が取引条件を明示することとされました(出典:公正取引委員会 フリーランス法Q&A)。
明示する事項は8つです。かっこ内は、自分の案件への読み替えです。
- 発注者の会社名と、あなたの屋号や氏名
- 業務委託をした日(発注が決まった日)
- 給付の内容(何を何本、どこまで作るか)
- 給付提供の期日(納品日)
- 給付提供の場所(データ納品か、現地か)
- 報酬の額および支払期日
- 検査をする場合は検査完了日
- 現金以外で支払う場合の支払方法
明示の方法は書面に限らず、電子メールやチャットツールで送信する方法も認められています。契約書を交わさない案件でも、条件をチャットで送って残す意味はここにあります。
支払期日のルールは相手によって変わります。受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内という義務を負うのは従業員を使用する発注者で、従業員のいない個人の発注者には当てはまりません。
下段に置く条件確認の7項目
8項目のうち、一人で受ける案件で揉めやすいのは報酬と期日まわりです。そこへ入金額を左右する源泉徴収と消費税、後から効いてくる二次利用と秘密保持を足した7項目を、シートの下段に置きます。
| 項目 | そのまま使える聞き方 | 答えが無いと困ること |
|---|---|---|
| 報酬の額(税抜) | 今回のご予算はおいくらを想定されていますか | 見積より先に作業が始まる |
| 支払期日 | お支払いについて、御社のお取り決めはありますか | 入金がいつになるか読めない |
| 検査完了日 | ご確認はいつまでにいただけますか | 追加作業と修正の線引きが決まらない |
| 源泉徴収の有無 | 今回のお支払いは源泉徴収の対象になりますか | 入金額が想定と食い違う |
| 消費税とインボイス | 消費税は別途ご請求でよろしいですか。登録番号は必要ですか | 請求書を出し直すことになる |
| 二次利用の範囲 | 他媒体でも使うご予定はありますか。実績掲載は可能ですか | 追加の使用料を取り損ねる |
| 秘密保持 | お預かりする資料で、外に出せないものはありますか | 扱いの線引きが曖昧になる |
源泉徴収は、聞かないと手取りが変わる項目です。原稿料や講演料などの報酬・料金を支払うときは、支払う側に源泉徴収の義務があります(出典:国税庁 原稿料や講演料等を支払ったとき)。
100万円以下の部分は10.21%が差し引かれます。税抜5万円で合意しても、引かれる5,105円を除いた44,895円が入金額です。税抜の金額だけ決めて安心すると、この差で計算が狂います。
法律を理由にすれば切り出せる
お金の話が苦手な人ほど、自分の都合として切り出そうとして言葉が止まります。主語を法律に移すと口に出しやすくなりますが、使えるのは相手が事業者の場合だけです。
「フリーランス法で、報酬の額と支払期日を書面やメールで明示していただくことになっています。下の項目だけ先に埋めさせてください」
相手が事業者でなければ、どの依頼でも同じようにお願いしていると伝え、自分の定型運用として渡します。
初回から条件まで詰めるなら、フリーランスの初回打ち合わせの準備の当日の流れと合わせて使えます。
職種ごとに足す差分の決め方



職種ごとにシートを分けて作ったほうが正確ではありませんか?



共通12項目は固定したまま、足す項目だけ変えてください。何枚も持つと更新が止まります。
共通12項目はそのまま使い、職種ごとに足す項目だけを決めます。シートを職種別に何枚も持つと、どれも更新されないまま古い条件で送ることになります。
| 職種 | 共通12項目に足す項目 |
|---|---|
| Web制作・グラフィック | CMSの有無、ページ数や面数、対応ブラウザや印刷の仕様、公開後の更新担当 |
| ライティング | 文字数、本数と公開ペース、指定キーワード、レギュレーションの有無 |
| 動画編集 | 完成尺と縦横比、元素材の総尺と渡し方、テロップとBGMの用意 |
| エンジニア・システム | 動作環境、既存コードやサーバーの権限、テストの範囲、保守の範囲 |
| コンサル・講座 | 参加人数、回数と1回の時間、実施形式、資料の作成範囲 |
表に自分の職種が無いときは、成果物の仕様(サイズ、量、形式、尺)に、過去に揉めた工程を1つ足せば作れます。
コピーして使える1枚の作り方



19項目すべてを毎回埋めてもらうのは、相手の負担が大きくないでしょうか?



金額帯で残す項目を決めます。5万円未満なら6項目と契約条件7項目で足ります。
これで共通12項目と契約条件の7項目が揃いました。残るのは、毎回どこまで埋めるかと、どうやって渡すかの2つだけです。
案件の金額で残す項目を決める
19項目を毎回すべて埋めようとすると、数万円の案件では空項目ばかりが残ります。境目を5万円に置いたのは、この帯だと修正1回分の工数で利益が消えるからです。20万円を超えると、納品後の運用や保守の話が後から出てきます。
なお、金額帯は本記事が推奨する運用の目安で、統計にもとづく基準ではありません。
| 案件の金額(目安) | 使う項目 | 空項目のまま出してよい項目 |
|---|---|---|
| 5万円未満 | 最終決裁者、避けたい方向、支給素材と提供日、素材の利用条件、公開日と確認の場、修正の回数の6項目と契約条件7項目 | 依頼の背景、達成したい状態、現状の課題、届けたい相手、使われる場面、好みの参考例 |
| 5万〜20万円 | 共通12項目すべてと契約条件7項目、職種の差分 | なし。好みの参考例は1つでも可 |
| 20万円超 | 上記すべて。職種の差分に運用担当と保守の範囲を足す | なし |
契約条件の7項目は、どの金額帯でも空項目にしません。報酬の額、支払期日、検査完了日は法律上の明示事項に対応する項目だからです。境目で迷ったら、上の帯に寄せます。
貼って送るまでの3手順
作成先はGoogleドキュメントを既定にします。空項目に直接打ち込んで返してもらえて、こちらの仮案を同じ行に並べて置けるからです。
- 上の2つの表の項目名を1列目に貼り、案件名と記入日を先頭に入れる
- 末尾に職種の差分を2、3行足し、2列目に下の仮案を書き添える
- 案件ごとにファイルを複製し、相手のメールアドレスを指定して「編集者」で共有する
仮案は次のとおり置きます。修正は2回まで(文言と色の差し替えまで)とし、支払いは納品から30日以内、検査は納品から7日以内とします。
消費税は別途で登録番号は請求書に記載し、二次利用は今回の媒体のみで実績掲載は可とします。いずれも統計値ではなく運用上の目安です。相手に白紙を渡すより、こちらの仮案を消してもらうほうが早く決まります。
3の共有設定で「リンクを知っている全員」は使いません。報酬の額や秘密保持の項目が載る文書だからです。案件ごとに複製しないと、他のクライアントの記入内容まで相手に見えてしまいます。
シートを送る時期と空項目への対処



送っても返信が来ないときは、催促したほうがよいですか?



催促より、こちらで仮に埋めて送るほうが早く決まります。違う項目だけ直してもらいましょう。
日程が決まった初回打ち合わせなら、事前送付が基本です。決まった直後に送り、遅くとも前日までに目を通してもらえば、当日の時間を確認ではなく提案に使えます。
当日は空項目を一緒に埋める時間だと考えておくと、返信が無いまま迎えても慌てません。
空項目だらけで返ってきても、催促を重ねる必要はありません。判断できないから書けないことが多いからです。未記入の項目はこちらで仮に埋めたうえで、次のように返します。
件名: ご記入内容の確認とこちらからのご提案
公開日は〇月〇日、修正は2回まで、素材のご提供は〇月〇日まで、お支払いは納品から30日以内を想定しています。相違があればその項目のみご指摘ください。
それでも金額や回数で折り合わないときは、フリーランスの単価交渉の伝え方の例文が使えます。
まとめ
- ✓ 共通12項目で足りる:案件の輪郭4項目・進む方向4項目・工数を守る4項目。聞かなかったときの損害が大きい順に選ぶ
- ✓ 契約条件は下段の7項目:報酬の額・支払期日・検査完了日は法律の明示事項に対応する項目。どの金額帯でも空項目にしない
- ✓ 金額帯で埋める項目を変える:5万円未満は6項目+契約条件7項目、5万〜20万円は19項目すべて、20万円超は運用と保守の範囲まで足す
- ✓ 渡し方は案件ごとに複製:Googleドキュメントを1案件1ファイルで複製し、相手を編集者に指定。リンクを知っている全員は使わない
ヒアリングシートは、項目を増やすほど良くなるものではありません。聞かなかったときの損害が大きい項目から、共通12項目を選びました。
そこへ法律の明示事項に対応する3項目と、実務で揉めやすい源泉徴収、消費税、二次利用、秘密保持の4項目を足した計19項目で、一人で受ける案件には足ります。
次の一歩は、Googleドキュメントを開いて2つの表の項目を貼ることです。職種の差分を2、3行足し、案件の金額帯で空項目のまま出す項目を決めてください。
打ち合わせで決まった条件をチャットで送って残すところまでで、シートは自分を守る1枚になります。
よくある質問
- 支払期日の60日以内というルールは、個人からの依頼にも当てはまりますか?
-
当てはまりません。受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内という義務を負うのは、従業員を使用する発注者(特定業務委託事業者)です。従業員のいない個人の発注者には及ばないため、支払期日は個別に取り決めて記録に残してください。
- 契約書を交わさない案件でも、チャットでの明示だけで足りますか?
-
取引条件の明示は書面に限らず、電子メールやチャットツールで送信する方法も認められています。納品物の内容と納品日、報酬の額と支払期日を本文に書いて送り、相手の返信まで残しておけば記録になります。
- WordやExcelの無料テンプレートをそのまま使うのは避けたほうがよいですか?
-
配布物は制作会社の体制を前提にした項目が多く、一人で受ける案件には使わない項目が残ります。ファイルを往復させると版も分かれるため、必要な項目だけを自分のドキュメントに移し、1枚だけを更新する形にするほうが管理が楽です。
- 相手がシートに記入してくれないときは、どうすればよいですか?
-
記入を待つより、こちらで仮の内容を埋めて送り、違う項目だけ指摘してもらう形に切り替えてください。書けない理由は社内でまだ決まっていない場合が多く、仮案があるほうが相手も判断しやすくなります。
- ヒアリングシートは契約書の代わりになりますか?
-
代わりにはなりません。シートは条件を聞き取って記録するための道具で、合意そのものを示す書類ではありません。埋めた内容は見積書や発注時のメールに転記し、双方が了解した形で残してください。
参考文献・出典
最終更新: 2026-09-21/引用データは主にフリーランス法(令和6年11月1日施行)と2026年9月時点の公式情報
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