オンライン商談の手応えのあと、送るのが概算金額だけの数行メールなら、二週間後には「制作する会社が他に決まった」と連絡が来ます。そんな終わり方に心当たりはありませんか?
断られた原因は単価や実力に見えますが、分かれ目はそこではありません。打ち合わせに同席していなかった人の手元に、判断できる材料が届いたかどうかです。
担当者は納得していても、上司や決裁者への説明に使える手元資料がなければ話は進みません。提案書は、あなたの代わりに社内会議で話す資料だと考えると、書くべきものが決まります。
この記事は商談後、提案書を送る場面が対象です。商談前の導線作りはフリーランスの案件の取り方へ。
必須項目は表紙・要約・課題・目的・解決策・スケジュール・体制・費用・対応範囲・実績・連絡先など11個。仕分けて写せば、2時間ほどが目安です。
- 提案書に入れる11項目と、それぞれの分量の目安
- 打ち合わせメモを4区分に仕分けて写す手順と、合計2時間の内訳
- 費用は幅と理由2つ、対応範囲は含む・含まない・追加時の3列で書く型
- そのまま使える空のテンプレートと、架空案件をA4で6枚に収めた通し例
提案書とは何かと全体の構成
相談者見積書を送れば済む案件でも、提案書は要るのでしょうか?



金額だけでは、同席していない決裁者が判断できません。課題と条件をひとまとめにした資料が必要です。
提案書は、顧客の課題と解決策、期間、概算、対応範囲を、同席しなかった決裁者が一人で判断できる形にまとめた書類です。読み手が知りたいのは、何が、いつまでに、いくらで手に入るのかの3点に絞られます。
見積書や提案文と何が違うか
似た書類との違いは、目的で分かれます。見積書は金額の明細、企画書はアイデアの提示、自己紹介資料は自分の説明が中心です。提案書はそのどれでもなく、顧客の課題を起点に、解決の道筋と条件をひとまとめにします。
紛らわしいのが、クラウドソーシングの応募フォームに書く提案文です。
| 提案書 | 提案文(応募文) | |
|---|---|---|
| 送る場面 | 商談を終えたあと | 案件募集への応募時 |
| 主な読み手 | 担当者と、同席しなかった決裁者 | 募集を出した担当者 |
| 分量 | A4で4〜8枚 | 200〜800字程度 |
| 書く順番 | 課題から入り、条件で締める | 結論と実績を先に出す |
提案文は担当者に読ませる文章、提案書は担当者の上司まで届く資料です。この記事で扱うのは後者だけなので、募集への応募からたどる方は先ほどの案件の取り方の記事が近い内容になります。
全構成の項目と分量の目安
この記事では、提案書に入る項目を次の16行に整理します。業界共通の定義ではなく、本記事の基準です。並べる順番には理由があり、顧客の話から自分の話へ進みます。
| 順番 | 項目 | 何のために置くか | 必須か | 分量の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 0 | 表紙と件名 | 誰への何の提案かを一目で示す | 必須 | 1ページ・数行 |
| 1 | 要約ページ | 同席しなかった決裁者が数十秒で判断できるようにする | 必須 | 1ページ・4行 |
| 2 | 背景と課題の整理 | 認識が合っているかを確認する | 必須 | 200〜400字 |
| 3 | 目的とゴール | 何をもって成功とするかを決める | 必須 | 100〜200字 |
| 4 | 解決策の提案 | 何をするかと、その進め方を選ぶ理由を示す | 必須 | 400〜800字 |
| 5 | 進行スケジュール | いつ終わるかの見通しを渡す | 必須 | 表で1ページ |
| 6 | 体制と役割分担 | 誰が何をやるか、連絡経路はどうなるかを決める | 必須 | 150〜300字 |
| 7 | 費用の考え方 | 予算感の判断材料を渡す | 必須 | 半ページ(明細表は不要・幅と理由のみ) |
| 8 | 対応範囲と前提条件 | 含む作業と含まない作業を線引きする | 必須 | 表で半ページ |
| 9 | 実績と自己紹介 | 依頼先として想像できる状態にする | 必須 | 1件3行・2〜3件 |
| 10 | 有効期限と連絡先 | 概算がいつまで有効かと、決裁者からの連絡先を示す | 必須 | 表紙と要約に各1行 |
| 11 | 提出方法 | 納品先とデータの渡し方を決める | 案件により追加 | 2〜3行 |
| 12 | 検収の進め方 | 確認にかかる日数の目安を共有する | 案件により追加 | 2〜3行 |
| 13 | 支払条件 | 金銭以外での支払いを想定する場合に備える | 案件により追加 | 1〜2行 |
| 番号外 | ご確認いただきたい事項 | 仮置きした前提を相手に直してもらう | 任意 | 3行 |
| 番号外 | 取扱いの注記 | 社内検討以外への利用を断る | 任意 | 1行 |
必須は10番まで。11番以降は、検収の担当が別部署にいる、支給素材の受け渡しにルールがある、支払いが銀行振込以外になる、といった案件だけに足します。
分量の目安には、それぞれ理由を置いています。実績を2〜3件にするのは、担当者が上司に口頭で説明できるのが、業種と結果を2件挙げるあたりまでだからです。要約を1枚に固定するのも、転送された1枚だけで判断が終わる形にするためです。
項目を増やすほど良い書類になるわけではありません。読むページが増えれば、飛ばされるページも増えます。迷ったら10番までに絞り、各項目の密度を上げてください。
打ち合わせメモを提案書に写す手順



手元には打ち合わせのメモしかないのですが、何から始めればよいですか?



発言を4つの区分に色分けするところからです。材料はすでにメモの中にそろっています。
メモの発言を「困りごと」「実現したい状態」「制約」「決裁の流れ」の4区分に仕分け、対応する項目へ移す。作業はこれだけです。提案書の材料は、すでに打ち合わせメモの中にあります。
埋める順番と時間の目安は次のとおりです。合計2時間は、材料がそろっていて2本目以降を書く人の目安で、これも本記事の基準です。初めての1本は倍を見ておいてください。
- メモを4区分に色分けする(15分)
- 課題と目的を提案書の文体に書き換える(20分)
- 解決策と、その進め方を選ぶ理由を書く(30分)
- スケジュールと体制の表を埋める(15分)
- 費用の考え方と対応範囲の表を作る(20分)
- 要約ページの4行と、表紙の連絡先・有効期限を書く(10分)
- PDFに書き出し、送付メールを作る(10分)
要約ページを最後に回すのは、期間と概算が固まるまで4行が書けないからです。先頭のページから書こうとすると、そこで手が止まります。
メモを4つの区分に仕分ける
まず、メモの発言を4つに色分けします。制約は予算・期日・社内事情、決裁の流れは誰が決めるか。分けたら、そのまま別々の項目へ移します。
| メモの区分 | 移す先の項目 |
|---|---|
| 困りごと | 背景と課題の整理 |
| 実現したい状態 | 目的とゴール |
| 制約(予算・期日・社内事情) | 進行スケジュールと費用の考え方 |
| 決裁の流れ(誰が決めるか) | 要約ページと体制と役割分担 |
仕分けの段階では、きれいな日本語にしなくてかまいません。発言をそのまま貼り付けて、どの項目に置くかだけを決めます。
発言を提案書の一文に書き換える
次に、区分けした発言を提案書の文体へ直します。生の発言は主語が曖昧で感情が混ざるため、状態と影響が伝わる書き方に整えます。
| 打ち合わせでの発言 | 提案書の課題欄の一文 |
|---|---|
| 今のサイトは更新が自分たちでできない | 更新作業が外部依存となり、情報の反映に時間がかかっている |
| 問い合わせは来るけど、質がバラバラで | 問い合わせ件数は確保できている一方、想定顧客層との一致度に課題がある |
| 前の会社に頼んだとき、途中で何をやってるか分からなくなった | 制作進行の可視化が不十分で、社内への進捗共有が難しかった |
言い換えの原則は、人を責める書き方をしないことです。前の取引先や社内の誰かの落ち度に読める文にすると、担当者は上司に見せづらくなります。主語を「作業」「体制」「仕組み」に寄せてください。
打ち合わせで相手が使っていた言い回しは、そのまま採用します。「リード獲得」ではなく「問い合わせ」と呼んでいたなら、提案書でも問い合わせと書きます。
専門用語には注釈を1つ添えます。「CMS(管理画面から更新できる仕組み)」のように、15字前後で足ります。
メモが埋まらない区分があるときの書き方
予算も決裁フローも納期も曖昧なまま商談が終わることは珍しくありません。空欄が残ったときの扱いは2つで、どちらも空欄のまま送らず、こちらの前提を書いて相手に直してもらう形にします。
仮置きして前提を明示する:数字や時期が聞けていないときは、標準的な条件を仮に置き、その旨を1行添えます。
末尾に確認事項を3行で置く:仮置きが2つ以上になるなら、まとめて別枠にします。数を3つに絞ると、担当者が社内で聞き取りやすくなります。
決裁の流れが空欄のときは、要約ページを省かないでください。読み手が誰か分からない以上、1枚目だけで判断できる形にしておくのが安全です。
生成AIで下書きを作るときの線引き
メモの仕分けや、話し言葉を提案書の文体に整える作業は、生成AIに任せられます。ただし、線を引く場所が3つあります。
- 顧客から受け取った情報を入れない:見積条件や非公開の社内事情を外部のサービスに入力すると、秘密保持の取り決めに触れる場合があります
- 出力された実績や数値をそのまま載せない:やっていない案件が実績欄に混じれば、虚偽の記載になります
- 課題の特定と範囲の線引きは自分で書く:ここは商談で聞いた内容がすべてで、文章の巧拙とは別の話です
AIに任せてよいのは、聞いた内容を並べ替えるところまでです。判断が要る箇所は手で書いたほうが、結果として速く終わります。
項目別の書き方と例文



各項目は、どのくらいの分量を書けばよいのでしょうか?



項目ごとに目安を示しています。ページを増やすより、1項目の密度を上げてください。
項目ごとに「これ以上書くと読まれない」線があります。例文は固有名詞と数字を入れ替えれば、そのまま使える形にしてあります。7番の費用と8番の対応範囲は分量が多いため、次の2章で個別に扱います。
要約ページと連絡先
表紙の次に置く1枚です。内容は課題・提案・期間・概算の4つに固定し、それ以外は入れません。このページだけを転送しても意味が通れば、担当者は説明の準備をせずに社内へ回せます。
有効期限と連絡先:表紙と要約の下端に、屋号・氏名・メール・電話を1行で入れます。あわせて「本提案の有効期限:発行日から30日」の1行を置いてください。要約だけ転送された決裁者が直接連絡でき、半年後に当時の概算を持ち出される事態も避けられます。
取扱いの注記:末尾か表紙の脚注に「社内でのご検討にのみご利用ください。内容の二次利用や第三者への提供はご遠慮ください」と1行添えます。回覧される前提の資料である以上、他社への発注仕様書として使われる余地は先に閉じておきます。
1枚目だけで判断が終わる状態を目指してください。後半の本文には、進め方の詳細、想定されるつまずきと対処、対応範囲の表を置きます。
背景と課題の整理
課題欄は、ヒアリングで出た困りごとを2〜3点に絞ります。書きすぎると論点がぼやけ、書かなすぎると「分かっていない」と読まれます。打ち合わせで出た言葉を1つか2つ残すと、ちゃんと聞いてもらえたと伝わります。
目的とゴール
目的は、完成物ではなく状態で書きます。「サイトを作る」ではなく「担当者だけで週次更新ができる状態にする」と書けば、評価の基準が相手と共有できます。100〜200字で足ります。
解決策と、その進め方を選ぶ理由
解決策は「課題→対応→そうなる理由」の順で書きます。読み手が知りたいのは工程名ではありません。なぜそれで解決するのか、です。
末尾には、その進め方を選んだ理由を2点添えます。理由が2点あると、担当者はそのまま社内会議の説明に使えます。3点以上並べると、どれが主眼か薄れます。
進行スケジュールと体制
スケジュールは日付ではなく期間で書くと、着手が後ろにずれても提案書全体を作り直さずに済みます。工程が3つ以上並ぶなら表にしてください。
| 工程 | 期間の目安 | 顧客側の作業 |
|---|---|---|
| 要件のすり合わせ | 着手から1週間 | 現行サイトの管理情報の共有 |
| デザイン制作 | 2週間 | 初稿の確認と修正指示 |
| 実装と確認 | 2週間 | 掲載テキスト・画像の支給 |
| 公開と引き継ぎ | 1週間 | 操作説明への同席 |
顧客側の作業を先に書いてください。ここを書かずに出すと、先方の確認が2週間止まったときの遅れまで、こちらの段取り不足として記録に残ります。
実績と自己紹介
実績は多いほど良いわけではありません。顧客の課題と重なる2〜3件に絞ると、読み手は自分の案件に引き寄せて読めます。担当者が上司に伝えられるのも、業種と結果を2件挙げるあたりまでです。
守秘義務がある案件を抽象化する:社名を出せない案件は、業種と規模に置き換えます。公開してよい範囲は顧客との契約の定めによるため、判断は契約内容を確認したうえで行ってください。
数字が出せない案件は変化を書く:件数や売上の変化を出せなくても、「前はこうだった、今はこうなった」は書けます。知人紹介やクラウドソーシング経由の案件でも同じです。
実績欄だけは、例文の差し替えでは足りません。やっていない案件を業種だけ変えて書けば、経歴の詐称になります。該当する案件がなければ、項目ごと省いてください。
費用の書き方と概算の示し方



金額を1つに決めきれないときは、どう書けばよいですか?



幅で示し、幅が生じる理由を2つまで添えます。理由のない概算は、高いほうの数字で読まれがちです。
提案書に書くのは、概算の幅と、幅が生じる理由を2つまで。明細と税込の総額は見積書の役割です。ただし税込か税別かの別だけは、提案書の段階でも明記してください。
概算を幅で示す
金額を1点で言い切ると、条件が変わったときに値上げの説明が要ります。幅で示し、幅が生じる理由を2つまで書いてください。理由のない概算は、社内で高いほうの数字で見積もられがちです。決裁者は上限で稟議を通すためです。
予算をうかがえていないとき:費用欄を空欄にして送らないでください。金額のない提案書は、社内の比較検討の土俵に乗りにくくなります。予算枠を持っている相手ほど、枠に収まるかどうかで一次選別をするからです。
範囲を削った縮小版を用意する
予算が合わないときに値引きで応じると、次の案件も同じ金額が基準になります。削るのは金額ではなく範囲です。削る順番は、今の困りごとに直接効かないものから。
縮小版は本編に併記せず、予算の話が出たときに出す1ページとして持っておくと使いやすくなります。最初から並べると、安いほうを基準に検討が進みます。
見積書との出し分けと税の表記
概算は提案書、明細と税込の総額は見積書。この分担は変えなくてかまいませんが、正式見積は、求められてから作るのでは遅い場面があります。
制作会社との相見積を通す稟議では内訳のある見積書を求められることが多いため、提案書と同送するか、依頼された当日に出せる状態にしておきます。
単価の決め方や消費税・源泉徴収の計算は見積書側の話です。書き方はフリーランスの見積書の作り方、金額の根拠になる相場はフリーランスの単価相場にまとめています。
対応範囲と前提条件の書き方



含まない作業まで書くと、印象が悪くなりませんか?



線引きがあるほうが、追加の相談は早く届きます。値引き以外の比較軸も残ります。
対応範囲は、含む作業・含まない作業・追加になった場合の進め方を、1つの表に3列で並べます。提案書でいちばん差がつくのがここです。
含む作業と含まない作業を表にする
| 含む作業 | 含まない作業 | 追加になった場合の進め方 |
|---|---|---|
| テンプレート5種類までのデザイン制作 | 6種類目以降のデザイン | 1種類単位で工数を算出し、着手前に共有 |
| 既存テキストの流し込み | 原稿の執筆・リライト | 分量を確認のうえ別途ご相談 |
| デザイン確認の修正2回まで | 3回目以降の修正 | 回数と内容を確認し、日程への影響を先に連絡 |
| 公開後2週間の不具合対応 | 公開後の運用代行 | 月額の保守として別途ご提案 |
あわせて、前提条件として次の点を1〜2行ずつ書いておくと、認識のずれが起きにくくなります。
- 素材(テキスト・画像・ロゴデータ)の支給時期と、支給がない場合の扱い
- 確認待ちが発生したときの日程の考え方
- 成果物の二次利用の範囲と、納品時のファイル形式
- 作業の開始条件(契約書の締結、初回入金など)
範囲を先に書いておくと、値引き以外の比較軸が残ります。同じ金額でも、どこまでやるかが書かれている側のほうが、担当者は社内で説明しやすくなるからです。含まない作業を書くほど、追加の相談は早く来ます。
これらは提案段階では「先に確認しておく項目」です。条件の確定は、受注後に結ぶ業務委託契約の書面で行います。契約条文の書き方や法的な効力は、この記事では扱いません。
職種によって線を引く場所は変わる
表の中身は職種で入れ替えます。線を引くのは、過去に無料で引き受けてしまった作業のところです。
- 執筆:リライトの回数、取材同行の有無、構成案の作り直し、公開後の修正対応
- 動画編集:素材の支給形式と提供期限、再編集の回数、BGMや有料素材の購入費の負担
- コンサルティング:定例の回数と1回の時間、資料作成の有無、チャット相談の応答時間
どれも「何回まで」「いつまで」を数字で書きます。回数を書かない項目は、無制限の約束として読まれます。
制作会社と比較される前提での書き分け



ひとりで受ける体制は、やはり不利になりますか?



連絡経路と不在時の扱いを先に書けば、不安への答えになります。窓口が一人である利点も添えてください。
相見積の相手が制作会社なら、人数と実績数では並べません。比較の軸は、担当者が社内で説明しやすいかどうかに寄ります。個人だから出せる条件と、個人ゆえに聞かれる不安への答えを、決まった場所に書きます。
体制に連絡経路と不在時の対応を書く
窓口が一人であることは、認識のずれが起きない利点と、止まったらどうするという不安の両方を生みます。利点と不安を同じ段落で先に書ききると、決裁者が質問する前に答えが渡ります。
提案書に書いた応答条件は、そのまま受注後の運用条件になります。守れる水準だけを書いてください。代替要員がいないなら、いると書かない。返信の速さ、不具合対応の期間、修正回数も同じです。
決裁者が気にする継続性に先回りする
決裁者の懸念は、品質より継続性に寄ることが多いです。「この人が対応できなくなったら、うちのサイトはどうなるのか」という問いには、技術の説明より、資産の所在で答えます。
この一文は体制の項目の最後か、対応範囲の表の直下に置きます。費用の近くに置くと、値段の言い訳のように読まれます。
インボイスの登録番号:適格請求書発行事業者の登録の有無は、発注側の経理処理に関わります。登録しているなら連絡先の欄に番号を1行添え、していないなら免税事業者である旨を書いておくと、経理からの確認の往復が減ります。
提案書の項目は発注書の項目になる



取引条件の書面は、こちらから用意するものなのでしょうか?



明示することとされているのは発注する側です。提案書の項目をそろえておくと、相手が転記しやすくなります。
取引条件を明示する義務は、発注する側にあります。提案書はその明示書面の代わりにはなりません。それでも項目をそろえておくと、相手の社内手続きに転記しやすくなります。
明示することとされている事項
フリーランスとの取引には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が関わります。この法律は令和6年11月1日に施行されました(出典:公正取引委員会 フリーランス法)。
守られる側として想定されているのは、従業員を使用しない個人と、代表者以外に役員がいない一人法人です。従業員を雇っている場合や、相手が消費者である取引は対象から外れます。
| 全構成表の項目 | 発注事業者が明示することとされている事項 |
|---|---|
| 表紙と件名 | 発注事業者・フリーランスの名称 |
| (提案書に対応する項目なし) | 業務委託をした日 |
| 解決策の提案 | 給付の内容 |
| 進行スケジュール | 給付を受領する期日/役務の提供を受ける期日 |
| 費用の考え方 | 報酬の額および支払期日 |
| 提出方法 | 給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所 |
| 検収の進め方 | 検査完了期日(検査をする場合のみ) |
| 支払条件 | 報酬の支払方法(金銭以外の方法で支払う場合のみ) |
条件が付くのは検査完了期日と支払方法の2つだけで、それ以外は検査や金銭以外の支払いがなくても明示することとされています。
「業務委託をした日」は発注時に発注側が記載する事項なので、提案書に対応する欄はありません。費用の考え方に書くのも概算の幅であって、確定した報酬額ではありません。
明示の方法と支払期日には、次の決まりがあります。
- 明示の方法:書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で行うこととされ、「口頭で伝えることは認められません」と説明されています(出典:公正取引委員会 フリーランス法特設サイト)
- 報酬の支払期日:発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定めることとされています。この義務の対象は、従業員を使用している発注事業者です
- 再委託の場合:再委託である旨などを明示すれば、元委託業務の支払期日から起算して30日以内で定めることができます
条件が示されないときの動き方
明示は本来、発注後すぐに書面か電磁的方法で行われるものです。とはいえ、小規模な発注元から何も届かないことはあります。待つのではなく、こちらからメールで条件を確認し、記録を残してください。
文面は、提案書の項目を質問に変えるだけで足ります。業務委託日、給付の内容、受領期日、報酬額と支払期日。この4点を1通にまとめて送ります。
公正取引委員会は、令和6年度にフリーランスに係る取引について5,018件の相談に対応したと公表しています。同じ資料では、54件について指導を行ったとされています(出典:公正取引委員会 令和6年度の運用状況)。
厚生労働省の事業であるフリーランス・トラブル110番も、同じ年度に12,323件の相談に対応しています。条件が曖昧なまま進む取引は、実際に相談と指導の対象になっているということです。
応じてもらえないときは、公正取引委員会の申出窓口や、第二東京弁護士会が厚生労働省の委託を受けて運営するフリーランス・トラブル110番に相談できます。自分の取引が対象になるか、提示された条件に問題がないかの判断は、この記事では行いません。
自分が発注する側になったとき:作業の一部を誰かに外注すれば、今度は自分が明示する側になります。取引条件の明示は、従業員を使用しない発注者にも求められます。提案書の項目をそのまま発注メールに写せば、必要な事項はおおむね埋まります。
提案書の分量・形式と送り方



提案書は何枚くらいだと読んでもらえますか?



要約1枚と本文で、A4の4〜8枚が本記事の目安です。書き上げたらPDFに書き出して送ります。
要約1枚と本文を合わせて、A4で4〜8枚。担当者が一度で読み切れるのは、この範囲までというのが本記事の基準です。書き上げたらPDFに書き出して送ります。
スライドか文書かの選び方
図で見せる提案はスライド、条件と範囲を細かく書く提案は文書が向きます。ひとりで受注する側が先に確かめておきたいのは、次の3点です。
- 相手の会社が外部共有を禁止していることがある:クラウドの共有リンクは、先方のセキュリティ規程で開けない場合があります。初回だけ、届いたかどうかを確認しておくと安全です
- 共同編集にすると検討の過程まで見える:コメントや編集履歴が残る形式で渡すと、金額を書き換えた跡や作りかけの版まで相手に見えます
- メール添付の上限に当たる:写真を多く載せた提案書は容量が膨らみます。書き出しのときに画像を圧縮しておきます
送付をPDFにするのは、相手の環境でレイアウトが崩れず、手元で書き換えられた版が出回りにくいためです。編集を止める設定をしない限り、PDFも編集はできます。
ファイル名には社名・案件名・日付を入れます。「提案書_◯◯株式会社様_サイトリニューアル_20260820.pdf」の形です。社内で共有されたときに探しやすくなります。
送付メールと再提案
本文は3行で足ります。メールで説明しきろうとせず、要約ページに送るのが役割分担です。
返信がないのは、検討されていないからとは限りません。社内で回覧が止まっているだけのこともあります。催促ではなく「補足資料が必要でしたらお送りします」という形にすると、相手も返しやすくなります。間隔は1週間後に1回、さらに2週間後に1回程度が目安です。
再提案では、冒頭に変更点だけを3行でまとめてください。読み手が知りたいのは前回との差分です。
そのまま使える空のテンプレート



テンプレートは、どこから埋めていけばよいですか?



上から順に埋め、要約ページだけ最後に戻ります。期間と概算が固まるまで4行が書けないためです。
【 】を埋めれば形になる骨格です。上から順に埋めて、要約ページだけ最後に戻って書きます。
“`
■表紙
【提出先の社名】様 【案件名】のご提案
【提出日】/【屋号・氏名】/【メール】/【電話】
本提案の有効期限:発行日から【日数】日
■要約(1枚に収める)
課題/【 】
提案/【 】
期間/着手から約【 】週間
概算/【 】万円〜【 】万円(税別・範囲は【 】ページ目)
■背景と課題の整理(2〜3点/200〜400字)
■目的とゴール(状態で書く/100〜200字)
■解決策の提案(課題→対応→そうなる理由/400〜800字)
この進め方を選ぶ理由は2点です。1つは【 】。もう1つは【 】。
■進行スケジュール(工程/期間/顧客側の作業の3列)
■体制と役割分担(担当範囲・連絡経路・不在時の扱い)
■費用の考え方(概算の幅+幅が生じる理由を2つまで)
■対応範囲と前提条件(含む/含まない/追加時の進め方の3列)
■実績と自己紹介(自分がやった案件のみ・2〜3件)
■ご確認いただきたい事項(3行まで)
■注記:社内でのご検討にのみご利用ください
“`
差し替えるのは【 】の中だけです。実績欄だけは例外で、該当する案件がなければ項目ごと削ってください。
全項目を埋めた提案書の通し例



通し例は、そのまま真似してよいのでしょうか?



差し替える箇所を各枚に示しています。実績欄だけは架空の記入例なので、自分の案件に置き換えてください。
架空の1案件で、前章のテンプレートを埋めた形を見ます。案件は、金属部品加工・従業員40名の製造業からのサイトリニューアル相談です。この通りに作るとA4で6枚、表紙と要約が2枚、本文が4枚になります。
前章までに出した例文と重ならない部分だけを載せます。体制と確認事項の文面は、項目別の章で示した例をそのまま使ってください。11番以降は今回の案件では不要として省いています。
表紙と要約(1枚目と2枚目)
1枚目で誰への何の提案かが分かり、2枚目だけ転送されても判断が終わる状態にします。見るところは3つ。概算に幅があること、範囲の記載ページが指定されていること、連絡先と有効期限が入っていることです。
【差し替える箇所】社名・案件名・提出日・屋号と氏名・連絡先・公開時期・概算金額
3枚目から6枚目の中身
3枚目に課題と目的と解決策、4枚目にスケジュールと費用、5枚目と6枚目に対応範囲と実績を置きます。確かめるのは、費用の幅の理由が対応範囲の表と食い違っていないかです。ここがずれていると、社内で読み比べた人に質問されます。
【差し替える箇所】経過年数・課題の中身・着手日・工程の期間・移行点数・実績の業種と内容
着手日は9月1日を仮置きしています。契約日が動いた場合は、各工程の開始も同じ日数だけ後ろにずれます。
| 工程 | 期間の目安 | 貴社側の作業 |
|---|---|---|
| 要件のすり合わせ | 9月上旬から1週間 | 現行サイトの管理情報の共有 |
| デザイン制作 | 9月中旬から3週間 | 初稿の確認と修正指示 |
| 実装と確認 | 10月上旬から2週間 | 製品データ・写真の支給 |
| 公開と引き継ぎ | 10月下旬に1週間 | 操作説明への同席 |
| 含む作業 | 含まない作業 | 追加になった場合の進め方 |
|---|---|---|
| テンプレート4種類のデザイン制作 | 追加テンプレートのデザイン | 1種類単位で工数を算出し、着手前に共有 |
| 既存製品情報の移行(30点または60点) | 61点目以降の移行 | 点数を確認のうえ別途ご相談 |
| 製品仕様のCSV一括更新の設定 | 基幹システムとの自動連携 | 要件を確認し、別案件としてご提案 |
| 公開後2週間の不具合対応 | 公開後の運用代行 | 月額の保守として別途ご提案 |
最後に「ご確認いただきたい事項」を3行置いて終わります。文面は、メモが埋まらない区分の書き方で示した3行と同じ形で、公開希望時期の前提だけ10月下旬に書き換えます。
1項目に1ページを使い切ろうとせず、スケジュールと費用のように短い項目は同じページにまとめると、この分量に収まります。
まとめ
- ✓ 必須は10番まで:表紙・要約・課題・目的・解決策・スケジュール・体制・費用・対応範囲・実績・有効期限と連絡先を基本形にします
- ✓ 要約は1枚で最後に書く:期間と概算が固まってから4行にまとめ、転送された1枚だけで判断が終わる形にします
- ✓ 費用は幅、範囲は3列:概算は幅と理由2つまで、対応範囲は含む・含まない・追加時の進め方を並べます
- ✓ 今夜できる1歩:打ち合わせメモを開き、発言を困りごと・実現したい状態・制約・決裁の流れに色分けします
提案書づくりでいちばん時間を取られるのは、文章を考える時間ではありません。どの発言をどの項目に置くかを決める時間です。仕分けが終われば、あとは埋めるだけになります。
今夜できることは1つです。打ち合わせメモを開いて、発言を4区分に色分けするところまで進めてください。残りの作業と時間の目安は「打ち合わせメモを提案書に写す手順」にまとめています。
複数社で比較されているなら、読み比べられるのは金額だけではありません。範囲と進め方、そして担当が代わらないという条件が書かれた提案書は、担当者が社内で説明するときの材料になります。
よくある質問
- 提案書の作成に費用を請求してもよいですか?
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商談後に送る通常の提案書は、無償で出すのが一般的です。ただし現状調査や要件の洗い出しに日数がかかる場合は、その部分を有償の設計作業として切り出し、別途お見積りする形をあらかじめ伝えておく方法があります。
- 過去に作った提案書を、別の顧客に使い回してもよいですか?
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構成と表の枠は流用してかまいません。課題・目的・実績・費用は案件ごとに書き換えてください。前の顧客の社名や数字が残っていないか、PDFに書き出す前にファイル全体を検索して確認します。
- 提案書はどのソフトで作るのがよいですか?
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手元にあるもので足ります。条件や範囲を細かく書くならワープロソフト、図で見せるならスライドが向きます。どちらの場合も、送付はPDFに書き出した形にします。
- 提案書に押印や電子署名は必要ですか?
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提案書は契約書ではないため、押印がなくても差し支えありません。屋号・氏名・連絡先と有効期限が入っていれば足ります。押印が要るのは、受注後に結ぶ業務委託契約の書面や、相手の社内様式で求められる場合です。
- 数万円程度の小さな案件でも、提案書は必要ですか?
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担当者の一存で決まる案件なら、メール1通で足りることもあります。その場合も課題・提案・期間・概算の4点は本文に書いてください。社内で回覧される見込みがあるなら、1枚の資料にしておくと説明の手間が減ります。
参考文献・出典
- 公正取引委員会 フリーランス法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)
- 公正取引委員会 フリーランス法特設サイト
- 公正取引委員会 令和6年度におけるフリーランスに係る取引の適正化に向けた取組
- 厚生労働省委託事業 フリーランス・トラブル110番
最終更新: 2026-08-20。 引用データは主に令和6年11月1日施行のフリーランス法と、公正取引委員会が公開している令和6年度の運用状況(令和7年5月15日公表)にもとづきます。









